ETTO#21 みんなの救急科 広島大学病院 救急集中治療科
広島県全体の救急を支える
広島大学病院 救急集中治療科
県内で唯一の高度救命救急センターがある広島大学病院。
他の病院では治療が難しい重症患者を受け入れ、高度な救急・集中治療を提供しています。
コロナ禍で強みを発揮したECMOでの呼吸管理や、外傷治療、臨床につながる研究分野について、
4人の先生に話していただきました。
広島大学病院には県で唯一の高度救命救急センターがあり、最重症患者が集まってくるのが特徴です。例えば、重症外傷や手足や指などの切断症例、全身熱傷、急性中毒、急性呼吸不全など、他の病院では対応できないような難しい症例を引き受ける、受け皿の役割を果たしています。
県内の医療機関には「24時間365日救急の専門医が対応します」とお知らせしていますよね。重症患者さんが発生したときに、いつでも連絡してもらえるように、日頃から連携をとっています。
県内の救急医療を広く診ていくことが、私たちの役割ですからね。
頻度の高くない重症例の管理に関しては、ある程度、集約化したほうが患者さんの予後が良くなることがデータで明らかになってきています。特に新型コロナウイルス感染症のときの重症呼吸不全の患者さんの治療例では、ECMO(体外式膜型肺)の使用に慣れたハイボリュームセンターで治療をしたほうが、より安全に回復できることが分かりました。
各病院の先生方が私たちを信頼して患者さんを送ってくださっています。私が救急科医になったのは20年ほど前で、ここの救命救急センターができたばかりの頃でした。県内にも救急を専門とする医師は数えるほどでしたが、当時と比べるとその数はかなり増えています。
当院だけで30人以上、県内には50人以上いますよね。
はい。盛り上がっているのを感じます。とはいえ救急科医のニーズを考えると、まだまだ足りません。救急科医の役割は、特定の臓器に限らず全身管理をすること。それだけ幅広い領域で患者さんを診ることができます。災害現場でも活躍できますから、いざというときの医療を守るためにも、もっとたくさんの救急科医を育てていく必要があるのです。
高度な呼吸器管理は当院の強みの一つ。新型コロナウイルス感染症の流行でECMOが注目されましたが、ここではそれよりもかなり早い2009年から活用し、スタッフ全員で修練を続けてきました。
全国的に見ても、これだけECMO症例が集約された施設は珍しいですよね。
コロナ禍に県内の最重症患者さんを一手に引き受けることができたのは、これまでの積み重ねがあったからこそ。
症例数が多いことで、僕らのような若手でも積極的にECMO 導入の手技をさせてもらえます。知識だけでなく手技もしっかり学べる環境だと思います。
ECMO の合併症をいかに減らすか、どのタイミングで外すのか。朝夕のミーティングやカンファレンスで常に話し合っているので、すごく勉強になります。週に何度か、専攻医がECMO 管理をしているところを、上級医の先生が見てくれる機会もあって。ベッドサイドで直接アドバイスをしてもらえるのがありがたいです。
呼吸だけを診ればよいわけではなく、全身の臓器管理が必要なところに難しさがありますよね。
そうそう。時には「本当にこれでいいのかな」と不安になることも。でも、その場で意見を言ってもらえると、「これで大丈夫なんだな」と安心できる。背中を押してもらえる心強さがあります。
ECMO は24時間365日管理が必要なので、スタッフが交代しながら診る必要があります。だからこそ診る人によってレベルが変わってはいけません。今はしっかり経験を積んだスタッフが、皆同じように高い水準で呼吸管理ができるようになってきました。診療科全体でレベルアップしているのを実感しています。
升賀先生と下村先生は去年から当院で勤務していますが、ここでの仕事はどうですか?
広島県の最重症患者さんが集まって来るので、忙しい日々を送っています。症例が多いとそれだけ経験が積めるので学びになりますし、勉強をすれば若手でも治療選択などに大きく関わることができるのが嬉しいです。
あらゆる疾患に対応するのが救急科医ですが、僕はここでの研修を通して「この疾患だから診られない」と断ることが減ってきたと感じます。
升賀先生は月に数回、東広島医療センターで勤務していますよね。
はい。救急科のない病院ですが、研修医の先生たちに救急科医の魅力を伝えられたらなと思っています。実は「将来は救急科医を目指したいです」と言ってくれた研修医もいるんです。一人でも救急科医になる人が増えてくれたら嬉しいです。
救急というとハードなイメージがあるかもしれませんが、実はシフト制で働きやすい診療科ですよね。
そう思います。勤務時間中は1分1秒を争うような緊迫した現場ですが、交代制の勤務体制なので、一歩病院の外に出れば完全にプライベートな時間を大事にできる。
長期の休みでも他の先生たちが診てくださるので、いったん診療のことは忘れてリフレッシュできます。女性医師も多いですしね。
年々、割合が増えていて、今は医局員の4割は女性医師です。
妊娠、出産を経て仕事復帰される先生も多いので、その姿を見て「自分にもできるかも」と思ってもらえる。いい循環ができていますよね。うちはまだ子どもが小さいので、私は家庭の時間を大事にしたいと思っているんです。だから、定時で帰れる今の働き方がとても合っています。
救急は24時間365日稼働しているので、短い時間しか働けないスタッフがいても、その時間をカバーしてくれれば他の人たちは助かります。個人が頑張りすぎなくても、チーム全体でカバーできるシステムができているのが救急科のよさですね。
当院では重度の外傷症例を多く扱っています。
特に脊椎・骨盤外傷、四肢切断などは、県内でも再建治療ができる病院が限られているので、症例数が多いですよね。
重症外傷の患者さんは分単位で状態が悪化していくから、医師に許される時間の猶予が限られています。できるだけ早く、適切に治療を進めていかなければなりません。
「急ぐ、急がない」の判断は、僕たちだけでは難しいこともあ…。骨折はしているけれど、すぐに手術をしたほうがいいのか、少し待っても大丈夫なのか。迷うこともありますが、下村先生が整形外科で外傷の勉強をしてきたことを僕らに共有してくれるので、それが診療で役立っています。
そう言ってもらえて嬉しいです。救急と整形外科の橋渡しができたらなと。僕の場合はほとんど外科的なスキルがなかったので、整形外科では縫合から骨折整復、創外固定といった基本スキルを教えてもらいました。今はさらに一歩進んで、重症四肢外傷の治療戦略を立てたり、骨折手術の執刀をしたりと、深いところまで経験させてもらっています。
下村先生は一つ後輩ですが、外傷治療について教わることが多いです。
僕自身、外傷を学んだことで治療の幅が広がりました。これまで神経ブロック麻酔や骨折整復、創外固定などは、整形外科にすぐにコンサルテーションをお願いしていたのですが、今は自分で解決できるようになりました。
救急は幅広い領域をカバーする診療科ですが、下村先生のように専門性を突き詰めていく道もあります。
将来は、全ての救急疾患に対応できて、その上で外傷治療の専門性を高めて頼られる医師になりたいと思っています。
僕はこれから小児症例を勉強したいと思っています。当院では重症の小児症例を年間100件以上受け入れていますが、まだまだ苦手意識があるので。救急科には小児を専門としている先生が複数いらっしゃるので、今が学ぶチャンスかなと。
それはぜひ頑張ってほしい。それぞれの学びを救急科のメンバーで共有していくことが、全体のスキルアップにつながります。集中治療はオーケストラの指揮者にたとえられることがありますが、専門性を持った上で全身を診るマネジメントができるようになると、さらに素晴らしいと思います。
大学病院として力を入れているのが研究です。私がテーマにしているのは「集中治療後症候群」。集中治療を受けた患者さんは、病気が治った後も長期的な機能障害を起こすことが分かっているのですが、それがなぜ起こるのかは明らかになっていません。今、基礎研究を通して、病気の解明に迫っているところです。海外留学を経験している先生も多くて、石井先生もその一人ですよね。
はい。アメリカのフィラデルフィア小児病院に留学しました。そこでの学びを土台にしながら、重症感染症と心停止をテーマに研究を進めていこうと思っています。
そもそもなぜ研究をしようと?
臨床医として働いていると、自分の思考が停滞してくる時期がありますよね。それを乗り越えるためには、考え方や視点を変える必要があるんじゃないかなと。それで、これまでやったことがないことをやってみたいと思ったんです。
研究をしてみてどうでしたか?
かなり視点が変わりましたね。研究者の視点で臨床を見ると、今まで全然見えていなかったものが見えるようになりました。それが楽しくて。知らなかったことを知ることができるのが、研究のモチベーションになっています。
たしかに臨床だけをしていると、自分の思考や治療の限界が見えてきてしまう。石井先生のように、臨床医の立場から研究分野に目を向けていくことは大切だと思います。
留学を希望すれば行かせてもらえる環境なので、研究に興味がある人はぜひ挑戦してほしいです。
皆さんはどんなときにやりがいを感じていますか?
ずっとECMO で呼吸管理をしていた患者さんが、転院後にわざわざ「ありがとうございました」と挨拶に来てくれたときは嬉しかったですね。最初はベッドから動けず、意識もなかった状態から、歩けるまでに回復されたのだなと。
分かります。重症患者さんが多い分、どうしても助けられない患者さんもいますが、その分、集中治療を経て元気になった患者さんを見ると喜びも大きいですよね。
医師だけではうまくいかない領域なので、チームで力を発揮できたときにやりがいを感じます。僕たちが診ている患者さんは数分後に亡くなってしまう可能性もあるので、チームでどう判断して動くかが大事だと思っています。
疾患や症状にかかわらず、広く患者さんを診られるのが救急科医の醍醐味。進路に迷っている研修医や学生さんは、ぜひ救急科医を目指してほしいです。
救急科医になって20年経った今でも、毎日新しい発見があります。自分の人生をかけてもいいと思えるくらいに楽しい分野ですから、一緒に広島の救急を盛り上げていきましょう!
(ETTO#21 2025 Winter より)
太田先生のONとOFF
1日のスケジュール
Q.勤務体制について、特徴やアピールポイントを教えてください
普段は3チームで患者を振り分けており、チームごとで診療を進めています。自身は、若手の診療の補助やアドバイス、全体のマネジメントが主な役割です。
チーム制は、自身が不在でも診療方針が一貫しやすく、時間外対応を必要とされない点で優れています。
夜勤は2-3名で行っており多忙なこともありますが、その分責任もやりがいも大きいので楽しく勤務しています。
夜勤は翌朝の回診後で勤務終了なので、自由に過ごせます。
Q.勤務中に一番好きな時間を教えてください
また、若手が治療方針や臨床疑問について質問してくれる時は嬉しく感じます。
Q.休日の過ごし方を教えてください
また、ワインが好きで、自分にワインを教えてくれたソムリエがいるワインバーにはよく出没しています。
以前は映画にハマっていたり、大学時代にゴルフ部だったので練習場に行ったり、福岡で研修していた時にはウインドサーフィンに熱中したりしていましたが、今はどれもお休み中…。
またいつか再開したいと思っています。
旅行は好きなので、国内外問わず、家族と一緒に楽しんでいます。